「『ひなた』について、」製作・運営委員会 2010-2019 

「鉄道と少女 ひなた

VGD046 2009/03/07

CRITICISMS 論攷

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■彷徨の果て

“晩秋のある日、ふと列車に乗って旅立つ少女、ひなた。初めての一人旅、思うままに駅に降り立ち、見知らぬ土地を歩き、発見と驚きにとまどいながら、進んでゆく。_”〈「鉄道と少女」宣材コピーより〉

昼中は電車間の乗換移動や、電気店街を訪れる人々で賑わうJR秋葉原駅。人影もまだ疎らな早朝の構内を、一人の少女がホームに向ってゆく。秋冷の中、電車の到着を待つ彼女の佇まいは、心なしか小さく頼りなげだ。まもなく訪れる木枯れの季節前、一刹那の安穏を求めて街を発つ。乗り込んだ列車の中、時刻表を捲りながら気ままな旅へ・・ 

「鉄道と少女」は、アダルトビデオとしては異色のロードムービー風、もしくは叙情的なドキュメンタリーの体を成した作品である。作品中、男女の交合描写の合間に織り込まれる道行きのシークエンスは殊のほか丁寧に作られており、深秋の風景をゆったりと心地よく観賞する事が出来る。序盤15分程は彼女が電車を乗り継ぐ過程が描かれ、性的な描写は一切無い。が、AVとして見た場合にはそれは些か長尺で、女優か、若しくは登場する鉄道に思い入れの薄い視聴者にとってはスキップ対象となりかねないプロットだ。 荒唐無稽、或いは過激な性愛描写を売りとする作品が乱立される中、特異な性的フェティシズムに駈る意図もなく、有名女優を起用し、そのネームバリューのみで視聴意欲を煽動する構想さえ持たぬ試みは異質であり、本作はAVとしての本質を逸脱した作品といえるかもしれない。

しかし道行き過程で見られる風景描写は繊細で、的確なカメラフレーミングによって詩的に構成されている。編集も巧みであり、良質の旅情ドキュメントを想起させる画造りには制作者の気概と拘りが感じられ、氾濫するAVの枠に縛られない意欲作ともいえる。

本作は女優・堀北真希出演による単発TV番組「少女と鉄道」から発意された企画と推察できる。「少女と鉄道」はフジテレビの深夜番組「NONFIX(ノンフィックス)」枠で、2004年12月と2005年5月の二回に分けて放映されたドキュメンタリーであり、その後再構成され2部作としてDVD化されている。双方のタイトルからして酷似するが、DVDで比較しながら追っていくと、ひとりの少女が都心から電車を乗り継いでローカル線の旅に出るという主題、自身の語りによって進行し、乗降駅付近を散策してゆく展開も合致する。本編中の場面転換の際に於けるアイキャッチ挿入の模倣なども含め、オマージュ的狙いで構成されているようだ。 堀北版では鉄道乗務員や車中で隣り合わせた乗客との交歓、降り立った土地での地元民とのふれ合いが描かれるが、AVである本作では旅の途中で邂逅した男達との一期一会の情交が詳述される。

序盤はJR秋葉原駅からの出発〜電車を乗り継いでの旅の経過を描写していく。本家堀北版を踏襲した画造りだが、発車時のホームの光景、長閑な田園風景の中を走る車両のロングショットなどを鏤め、テレビの紀行番組を彷彿とさせる。

中盤までは主演者と絡む人物が登場しないこともあり、ローカル線に入ってからの一人旅的旅情は本作の方がより味わい深い。駅周辺に溢れる深秋の佇まいの中、線路の上をつたい歩いて一人遊びする少女、無人の駅舎や周囲に屯する野良猫達などがコラージュされていく。直走る気動車や秋色に覆われた山々など、美しい風景描写に静穏なBGMも重なり、暫しAVであることを忘れさせるシークエンスだ。こうしたショットはチャプター区切りの句読点、或いはシーンからシーンへの繋ぎの用途としての役割を成し、主演者による(とされる)ヴォイス・オーヴァーを伴いつつ本編中に多用されていく。

千葉県・小湊鉄道〜いすみ鉄道で撮影され、沿線の大多喜城や高滝ダムにもロケしている。(“LOCATIONS”「鉄道と少女 ひなた」項参照)小湊鉄道は内房線の五井駅から上総中野までの39.1キロを結び、木造の駅舎や幾つもの無人駅、非電化の車両等、昔ながらの雰囲気を今に残しているローカル線だ。
房総半島の中央を横断するように伸びる路線は、都心から近いことが起因してか数多くの映画やドラマ、CM、ミュージッククリップなどの撮影に取り上げられ、その情景は見る人の郷愁を誘う。本作でもかなりの尺を割いて旅の道程が描かれており、その風情は充分に味わうことが出来る。

 


多くの記憶容量を持つDVDメディアの登場以降、AVも一気に長尺化し今までは見られなかったアプローチの作品が製作されるようになった。ドラマ物では導入部が詳細に描かれ、オムニバス作品集では一編のボリュームが増した。

「鉄道と少女」のような試みも長時間収録が可能なフォーマットがあってこその企画といえる。 男女の交合や性的行為のみの描写に終始するのではなく、女優の素に近い表情を見られるこうした作品も一興だろう。

「全編Hi-vision撮影」と詠われた本作は、画質面で精彩を欠くものが多い彼女の出演作中では際立ち、映像の鮮明さでは突出している。DVDメディアである為、昨今の高画質デジタルコンテンツに慣れた目で見るとさすがに見劣りは否めないが、秋深い木々の紅葉やローカル線沿線の風情は充分堪能することが出来る。彼女の若い肌も細密映像に粗さえ見せず、入浴シーンや男優との絡みでその質感、張りや弾力を余すところなく供与している。