top of page

DIGRESSIONS〈2〉 「10代の甘い髪の香り_」  徒爾の論証

「鉄道と少女」中盤の情交シークエンスでは、複数テイクのランダムな縫合編集によって時系列の破綻が生じている。一般映画作品ではこうした編集上で生じた不整合が指摘されるケースは多々あるが、AVでは稀少な事例であろう。該当シークエンスはその非連続性が余りにあからさまであるため、作為的なものとも考えられる。

ひとつのシークエンスに於いて、ロングショットから演者のクローズアップへの変転、事象の流れに呼応するカット・アウェイの挿入等、編集作業がもたらす異視点間の交錯は、それぞれ一定尺で撮られた映像素材の部分摘出によるものであるが、頻々と衣服の汚濁や排除が繰り返され、主役たる女優の形姿変化が著しいAVでは、撮影効率を考慮すればストーリー展開に準じた撮影手順の確立は半ば必須と考えられ、こうした映像の一隅に見られる事象の連続性の痕跡こそがその証左となる。

AVでは「順撮り」がその経済性からも常套的手法と考えられ、本作では前述したカット跨ぎに見られる事象の一連性などから、編集作業はアングル転移時に生じた冗長な尺の削除を主とし、編集時の映像素材倒置はごく僅かなものに留まるのではないだろうか。 「DANDY」のバス作品に於いて、その殆どのカットが撮影順序を改変することなく紡がれるのならば、そこに出現する車窓風景を精査し、そこから一定の保証を取得しさえすれば、ある程度信憑性を持つ走行経路を模索することも可能となろう。
ひなたの登場するチャプターも代々木公園方面から出発したものと推測される。上述した「代々木公園」停留所辺りからの撮影開始であるとすれば、本編開始から約2分後、姉による髪結いシーンに一瞬映りこむバス停は、その行灯型形状から推して京王バス「宿51」路線の「参宮橋」停留所であろうか。バスはその後しばしの間「宿51」路線をなぞった後に都道4号線へ抜け中野方面へと向っている。直前のチャプター4ではその序盤に、「‪デニーズ 中野坂上店‬」看板と中野区中央の質店看板が映し出される。進行方向に対するカメラ位置の相違から車外に共通する事物は見えないが、これらの店舗は「ひなた編」開始6分過ぎ頃にさしかかる走路の対向車線側に位置するものであり、同チャプターではその後場所を見定める糸口に乏しいが、挿話の序盤に於いては2編で一致し同一ルートを辿ったことが判る。

オープニングからチャプター3までの3編は車窓からの外景は殆ど目視出来ず(あるいは探査の指標たりうる特徴的な建造物の不在)走行路は見えにくい。

チャプター1では本編開始から約5分後に、弁当チェーン「オリジン弁当」の電飾ファザードサインと袖看板が一瞬見えている。繁華街に林立するコンビニやチェーン展開の飲食店等では、同一系列店舗であっても立地や規模の違いによって店舗毎にV.I.(ヴィジュアル・アイデンティティ)サインは様々な類型を持っており、映像の店舗サインの形状、直後に現れる雑居ビルの袖看板(明解な二色により分別表記された入居テナントの一覧標識)の一致から、同チェーン「永福町店」であることが確証される。チャプター2では開始から19:37に「庄や 永福町店」前の走行が確認できる。(直前に通過する「らあめん花月」との位置的抱合による)これらの店舗は、井の頭通り永福町駅前の約150m範囲内に位置し、挿話の経過に伴う通過時間こそ開きがあるものの、全く同じ道筋を辿っている。2編は都道路を環状7号で折れたひなた編よりさらに西へ走行、環状8号を南下したものと思われる。

再び遡ってチャプター1では、挿話中盤付近で西新宿のコンビニエンス・ストア「サンクス西新宿3丁目店」前の通過が確認できる。直前の「第2大閣ビル」と数軒先の飲食店通過シーン後にカット繋ぎが入るものの、同コンビニファザードサインの赤と緑からなるコーポレートカラーパネルの配列パターンの一致(店舗規模によりパネル色の配列順は多様化する)、店舗前に敷かれた横断歩道帯も符合している。こちらも「ひなた編」終盤の走路となった都道431号線であり、いずれも同一方向へ走行していることが判る。このように挿話終盤に再び代々木方面へと向かうのも、多くの作品で反復される慣例的事象である。

DANDY122、チャプター1・2本編中に於ける、数少ない走行場所確認可能シーン。

上:東京都新宿区西新宿・第2太閤ビル/東京都杉並区和泉・「オリジン弁当 永福町店」 

下:東京都杉並区永福・「らあめん花月 永福町店」/「庄や 永福町店」

これは代々木公園への帰着を臆度させると同時に、同地周辺に点在する制作会社事務所(「DANDY」制作を担うヒロスンエンタテインメント、「ナチュラルハイ」の株式会社ナチュ等)への、撮影終了に伴う何らかの“須要たる往訪”を示唆するものとも考えられる。

3以降のチャプターには、各々女優演じる役どころのアウトラインを掬いとる一節が冒頭に設けられる。(タイトルが掲示する「髪」に纏わる挿話が差異を伴い反復される)3では主役女優をミドル、アップ、仰角ショットで一頻り捉え、徐に髪を束ねる女優の所作が男優への情慾の誘因要素として描かれる。4、5では具体的な女優の個性補完としてエキストラとの会話シーンが織込まれているが、1と2にはそうした序章的描写は皆無である。

「DANDY」作品に於いて、撮影を実行しながら諸事情から1シークエンス、あるいは1作品全てがパッケージから削られる事態が稀でないことは、蓄積したストックフッテージ群を主体に編纂される「ワケあり仕事集」と銘打つ作品集の頻出からも明白だろう。挙例すれば、DANDY-178、女優・飯野寧々出演挿話に後続する顛末は、直後のリリースとなるDANDY-189「ワケあり仕事集 2」収録作品でその未使用シークエンスを見ることができる。

 

極めて恣意的な解釈をするならば、「10代の_」1・2両編にもあるいは以降のチャプター同様に何らかのブリーフィング的挿話が存在したかも知れず、唐突感を禁じ得ないチャプター1の永福町からの本編開始は、導入部の削除が起因するとも考えられるだろう。

bottom of page