「『ひなた』について、」製作・運営委員会 2010-2019 

DIGRESSIONS〈3〉 成人誌の凋落とその転換

インターネットの隆盛下にあって、ポルノグラフィに特化したウェブサイトはそれを渇望するユーザーの様々な性癖に呼応する形で数多く生産され、過激な性描写を包含する画像、動画は有償・無償の差違こそあれ、今や無修正映像に至るまで容易に閲覧・入手することが可能である。パッケージ商品としてのAVはその煽りを直接的に蒙るかたちで、販売数は甚だ低迷状態にあるといわれている。ネットへの不法アップロードにより、販売直後の市販作品が間を置かずに視聴出来てしまうという実情も大きな打撃となっていよう。

こうした事象は、出版業界に於いても類道であり、ネット社会の成熟に伴う書誌媒体需要の下降から著しい販売不況の波に見舞われている。「活字離れ」といわれ、雑誌類から享受した知識や情報の多くが、今やネットによって安易に得ることが可能となったことにその一因があるだろう。 嘗ては最も手軽で身近なアダルトメディアであった「男性雑誌」は、セルAVがDVDメディアへ移行し廉価化されたことで、その地位を大きく浸食されていったが、ネット上に蔓延するポルノグラフィの普及は、後発するAV不振の前兆として成人誌をさらなる衰退の一途へ向かわせる要因となっていた。

成人誌の付録DVDは、販売低迷に苦慮した出版社が販促手段として開始したものであり、2000年代初頭より急進し、後に成人誌の慣例的形態となってゆく。
月刊誌「サイゾー」2009年3月号の記事(安田理央氏)によれば、1990年代に発刊されていた成人誌は2009年には半数に減少し、存続した雑誌も軒並み部数を減らす傾向にあった。生き残りを賭けた出版社が講じた手段は、誌面からテキストを大幅に削り、写真主体の誌面オールカラー化、付録DVDの封入といった大胆な体裁リニューアルである。

成人誌とはいえ、誌面にはグラビアの他、コラム的な読み物や漫画が常時掲載されていたものだが、成人誌の店頭陳列規制により販売店での立読みが叶わぬようになったことで、これらの読み物は購入要因とはなり得ず、購求意欲の動因たりうる訴求点の要諦は、表紙に無秩序に踊る扇情的なキャッチコピーのみとなる。

熟考されているとはいえ、大小雑多の文字が躍り煩雑とした印象は否めない成人誌表紙には、官能的なキャッチコピーに加え、鮮麗なフォントでDVDの付属とその枚数、収録内容・収録時間が、コンビニ等でのひな壇陳列をも考慮したなレイアウトで配置されている。読者が要求するのは第一に官能的な画像精選であり、成人誌は表紙上の制約されたスペースで掲載内容要点の明示を迫られることになり、必然的に副次的な掲載記事を廃し、誌幅をグラビアで埋め尽くす手法に転じてゆく。DVD同梱を大きく謳うによって特典的な印象を与え、誌面掲載モデルを動画で再視聴できることを大きな付加価値とした。

現在の成人雑誌はA4判(あるいはA4変形判)サイズ、平綴じ製本が主流であるが、いわゆる週刊誌規格(B5判・中綴じ本)の雑誌にも常態的なDVD同梱を謳うものがある(週刊誌体裁を採りながら発行ペースは月刊である)。中身は巻頭、センター、巻末各グラビアに数本のコミックを掲載した週刊誌の基本的体裁であるが、表紙は掲載モデル達の顔写真とキャッチコピーで溢れて収録漫画の宣伝句は皆無であり、グラビアの添え物的な扱いでしかない。
この手の雑誌表紙に「素人」という表現も顕著に登場し、モデルの鮮度が求められていることが判る。一般的には知名度が極めて低い、ひなたのような企画女優らが起用される場であり、彼女達が模造された「素人」としての役割を担うこととなる。

DVDと誌面グラビアの連携形態は、映像と写真撮影を同時一括で抑えられる編集作業の効率化、制作費軽減という意図によるものといわれる。毎号複数名の女優を登場させてのコンテンツ制作に腐心するものの、雑誌の売り上げが芳しくなければ予算面で困窮し、撮り下ろし映像の収録も難しくなる。雑誌によって付録DVDの収録内容の大半を「市販AVの最新作予告編集」とし、メーカーからの素材提供によって制作費軽減を図るケースもあるといわれる。