「『ひなた』について、」製作・運営委員会 2010-2019 

「おしっこ漏らしちゃったよ…お兄ちゃん 水樹香奈」

FERMA-010 2009/01/25

CRITICISMS 論攷

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■錯雑する官能

いわゆる「性的偏愛」を扱ったAV作品は、そのパッケージで内包する嗜好属性をあらかじめ明記したものが多いが、琴線を刺激しうる傾慕の対象は十人十色で余りにも広範に及ぶために、もはや単一ジャンルの枠内には収まらず、現在では殆どのAVが何かしらの偏愛的要素を含有するものになっている。女優の大腿に蝋涙のごとく絡みつく裂かれたパンストの残片や、情交の激しい律動に晒される中、終末まで不自然に外されることのない眼鏡_ これらの描写もそのポイントに執心する一括りのフェティシストに向けた演出といえる。しかし極端に倒錯性の高いフェティシズムを扱う映像作品やマニアックサイトでも形象されるように、本来的なフェティシズムとは現在広義的に使われる「○○フェチ」といった、リビドー誘引の際に対象が所有する装飾としての、単なる付加的要素とは異なるものであり、その認否を分かつほど特異な、単一の物品や限局された事象に対しての多分に歪曲した執着が包有されるものである。

本作は数ある性的偏愛の中から「失禁」に固着し、ひなたの持つ少女性の提示をも交え、彼女が果たす排尿行動に対する執心性を本義とする作品である。男優は排尿を促す為に過度な水分摂取を強い、尿意の発生から放尿に及ぶまでを詳述する。着衣のままの排尿に拘ることから本作の佳局は、衆目下での排泄行為という演者の羞恥心誘起を視聴者が夢想することを端緒としたうえで、衣服の汚損愛好、同時に監視者(視聴者)が得る支配・征服欲の充足等も併せ持つであろう。

本編を視聴してまず目につくのは全編に亘る彼女の意気沮喪ぶりである。ひなたの出演作品にあって、彼女と男優間に頻々と対話が巡る際、その多くは談笑に転化して彼女自身の明朗さが露わになる一幕となる。だが本作では開始直後から終始臆した態度をとり、語り掛ける男優(監督自身とも考えられる)からの身体接触や要求にも気後れが感じられ、些末な質問に対する返答すら億劫そうに見受けられる。

姉妹編ともいえる同一監督作品「おしっこ漏らしちゃったよ 長澤るり」に於いては、作品の構成は相似するものの、主演者は序盤から快活で笑顔に満ちている。一方で「おしっこでちゃう おすとでちゃうの」(出演:田中みく)に本作と酷似したフォルムを見取ることが出来るが、男優は一転して寡黙であるために、両者間に生ずる対話の空転から生じる牴牾しさはなく、本作でひなたが見せる挙動が同監督作品に通底する画一的風儀という訳ではないことが判る。本作パッケージにローティーン出演を示唆するフレーズが謳われていることから、あるいは設定に準拠した作品内に於ける個性として、純真や慎みを繕う演出が成されているとも考え得るが、冒頭インタビューでの出演本数を問う質問により、本作が素人による初出演を装った企図でないことは明示され、的を射ていない。男優の言振りも、常に女優の身体の部位を弄びながらどこか陰湿かつ執拗な印象があり、両者の生理的不調和、意思疎通に生じた齟齬の表出とも身受けられるが、主演者が呈するこうした一連の振舞いが、作品全体におぼろげに伏在する暗澹の成因と思われる。

編首では子供じみた装飾の付けられた服装に身を包んだ彼女が、男優からインタビューを受けつつ執拗に身体を嬲られ、衣服を取り払われてゆくさまが延々と綴られる。ここでは本作の主題である失禁描写はなく、それを誘発すべく中盤以降で繰り返される飲物の強要もない。シークエンス自体がことのほか長尺であるため、本作のタイトル、キャッチコピーを認知のうえで視聴する者には、一向に本筋への起点に至らず戸惑いを覚える部分だろう。
次チャプターでは、唐突に差し出された2ℓ入ペットボトルをゆっくりと口飲みしてゆく。後続の水着編に於いても同様の行動が繰り返されるが、ボトル飲料を嚥下する際、喉元へ伸びる撮影者の手による摩触、脈絡のない眼鏡の装着指示や他シーンでの体操服姿など、(本来的には誤用の)広義としてのフェチ的行為の模索も随所に垣間見られる。

ひとしきりボトル飲料を飲み干し、佳境である放尿シーンに及ぶ。着衣状態で排泄するさまを捕らえたカットは終盤の水着編でも登場し、タイトルとも繋属した本作に於ける2つの極点であるべき筈だが、映像はいずれも局所の部分ショットのみに終始し、その最中にみせる彼女の表情への切り換し、あるいは被写体から距離を取ったバストショットやフルショットの提示を怠るがために、その真価は対象の個性表出を度外視した、手洗個室の窃視映像を模倣したかのような凡百の擬似盗撮作品の域を出ないものとなっている。同レーベル「パイパン少女 おしっこ漏らしちゃった まこ」では上述のカット割りが実現されており、作品佳境にあってのアプローチの差は画然たるものである。

作品としての疵瑕は、前掲した主演者の一貫した沈欝挙動を容認した演出に加え、本編・スチル撮影が同時進行され、幾つかのシーンでカメラのシャッター音をあからさまに拾集している。

AVのスチル撮りは本編撮影前後いずれかに時間を割いて行われる手順が主流と思われるが、カメラに消音措置を施し本編撮影と並行して遂行されるケースもあるという。しかし中にはその工程を省約し、本作のように完成映像への配慮を欠いた(シャッター音等、視聴の妨げとなる撮影プロセスで生じた痕跡の点在)作品も稀に存在する。パッケージ写真から判る通り、本作は別途スチル撮り時間も設けながら本編撮影中もさらなるスチル撮影が励行されており、場面によりストロボ光の明滅も感知される。本作の場合、スチルでは撮り得ない排尿カット取得のために採られた措置であろう。 数ある作品の中にはスチルカメラマンの随行さえなく、パッケージ全面を本編から抽出したキャプチャ画像で構成するような粗製レーベルも存在するとはいえ、映像からこうした視聴者が必要としない舞台裏が垣間見えてしまうのは興ざめであるうえ、著しく作品の質を落としかねないものである。さらに映像作品として致命的なのは、チャプター2中の本編撮影カメラのレンズに付着した指脂のような白色痕だろう。画面の中央部に位置し、本編中の多くの尺が汚れ付着のまま撮影されたものであり極めて煩わしい。