「『ひなた』について、」製作・運営委員会 2010-2019 

「制服ラブホテル あかね」(1)

APAA-210 2013/06/25

CRITICISMS 論攷

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■放縦と秩序

「制服ラブホテル あかね」は、「ひなた」から「森山茜」に至る一女優の出演作品群にあって、共演男優(監督でもある葵刀樹氏)によって導き出される、彼女自身の他に比倫なき官能的艶戯の内包と、その表象手段に長けた撮影者によって齎される映像の洗練性を以て、ひときわ秀出した一編であることは惑うことなく確然たるものだろう。
オムニバス作品出演が主体の彼女にあって尠少な単体出演作であることはもとより、2時間余の長尺ゆえ形成し得る、情交の過程を精細描写した本編の超凡な濃密度、男優の手持ちカメラによる不安定な撮影手法を一部に織り交ぜつつも、その填補として余りある固定ショットの至妙さ、同一レーベル作品に通底する、過度なメイクを排した女優の素の魅力の抽出とその肢体から放散する瑞々しい色香。これらを的確に捉え収めた葵刀樹監督特有の撮影手法が本作を統馭する妙味となっている。

編首。やや逆光気味にさす窓辺の陽光を受け、微笑しながらソファに掛ける森山の姿が薄闇からのフェードインによりエスタブリッシング・ショットとして提示される。
作品タイトルに「制服」を銘打ちながらも、出演女優・森山茜が着用する衣裳は同レーベルのラインナップ、果てはAV全般の「制服物」の多くに嗜好者向けアジュバントとして頻出する、セーラーやブレザーといった慣例的なものではなく、白ブラウスにプリーツスカートという極めて質素な装いとなっている。

夏服を想見したと思われる半袖ブラウスのカラーに引かれた細い紺ラインが、僅かに制服の持つ規律・拘束性を醸す襟章の趣を漂わせるとはいえ、胸ポケットの刺繍はおよそ校章的な意匠とも見えず、一瞥するだけでは学生制服とは判別しにくい。女子学生制服に特化した一部レーベル作品で見られるような、女優の傍らにスクールバッグを置く小道具演出も採らない為、「女子校生作品」という心象は希薄であり(本作パッケージに鏤められた本編キャプチャでも彼女は殆どが全裸である)、作品内にある女優の擬態した個人性を手繰る拠り所はこの「制服」というタイトルフレーズに限局される。

しかしながら、総じてオーロラの葵作品では、そのタイトルに深意は包含されておらず、登場女優に与えられた、本編に於ける役廻の粗略な輪郭線を視聴者に提示するに過ぎない。「若妻」「女子大生」「お嬢様」と冠されていても、作品中で設定に準拠する挿話や情景等の計らいが採択されることはなく、官能小説を連想させる扇情的なタイトルも作品主題を明示しているとは言い難い。
挙例すれば、オーロラレーベルの同監督作品「人妻白書 夢咲こよい」(2005年)で、女優・夢咲が、男の来訪を出迎える態から早々に玄関口廊下で事に及ぶシークエンスが設けられ、その様は作品タイトルから〈多分に誇張を持った甘美かつ背徳的な逢瀬の表象〉を想察させるとはいえ、そこに「人妻」たる心咎めや「不倫・密会」といったドラマ的情調は皆無だ。

「犯されたい若妻 もも」(2011)に於いてもその内容は、タイトルワードから掬いとられる「不貞」「強淫」といった感触とは程遠く、本作「制服ラブホテル」と大筋で酷似した展開で推移する。こうして葵監督作品はタイトルこそヴァリエーションに富むものの、一貫して独自の撮影スタイル、長年のキャリアを以て確立された定型的フォーマットで構成され、登用される女優は各作品内で設定されたキャラクターを装う為の自己開示の言明におよぶこともなく、冒頭から淡々と男優(葵氏自身)との房事に溺れてゆく。葵作品全般にみられるこの「定型的フォーマット」とは、各編毎に再出する幾つかの儀礼的行為であり、男優主導による執拗な女優への強制的口淫、ソファに座しての正面アングルを主体とした座位と、そこから転じた立位による交接描写、女優の頭部を床面に圧す屈曲姿勢での後背位等が挙げられる。これらがシークエンス毎に見られる常套的カメラワークと相乗し、さながら落成款識のごとく作品に氏の独自性を録している。

本作は男優(監督)の他に撮影者を随行せず、監督自らが男優と撮影を兼任する、いわゆる「ハメ撮り」作品である。この手法のオーソリティーとして名の挙がるAV監督としては、先駆と言われるカンパニー松尾氏があまりに著名であるが、葵刀樹監督も「ハメ撮り」技法に長けたキャリアを持ち、このジャンルに永く君臨するひとりである。AVでの手持ちカメラによる映像は常に幾許かの浮流感を伴うものであり、本作でも序盤こそ平坦なものであるものの、情事が佳境に入るにつれ、良好なアングルを求めて動体を追いカメラは極端に転回する。

取得された映像は、、一部に絵画のマニエリスム表現に見られる蛇状体的錯視に及んで瞬時に対象の姿勢が把握出来ず、また性交中のふたりによって生産される規則的な律動による画ブレを伴い、視聴者は些か疲弊を強いられることとなる。このように繰り返される顫動と不安定な映像に対する嫌悪と拒絶が、「ハメ撮り」作品を敬遠する者の一致した所感であろう。一方で第三者撮影では獲得できない対象との接近性を有するこの撮影手法により、女優が発する至近距離からの鮮明な息づかいや密着感を疑似体験することが出来る。本作序盤のソファに対座しての交歓シークエンス、佳境に於ける対面座位時の抱擁シーンでもそれは明確に実証し得るだろう。

「制服ラブホテル あかね」はメインとなる「制服編」と終盤に収載される「浴室編」の2編から構成されている。「制服編」は全体尺の約3分の2にも及ぶものだが、製品仕様として予め設定されたDVD版のチャプター分割を度外視するならば、一連の「制服編」シークエンスは明確に3つのパートに区処される。前戯から挿入に到る序盤、カメラをソファ正面にしつらえて開始される、座位・立位を固定カメラのみで綴る中盤、再び手持ちカメラを併用し、ベッド上で交わりの結尾を迎える終章である。主体となる撮影手法のシフトに加えて各パートの境界で時間飛躍を明示する編集がなされており、連連たる流れに節を設けて視聴者を新たな振起へと誘引すべく「起承結」を形成している。