「『ひなた』について、」製作・運営委員会 2010-2019 

DIGRESSIONS〈1〉 変容する女優、揺蕩う個性

AV女優は複数の別名所持や活動中の途中改名が珍しいことではない。中には五指に余る別名を持ち同時期に併用する者さえあるが、そうした異名を有する活動には、作品ジャンルによる使い分け、所属先移籍や引退後の再デビューなど様々な要因に依るものがある。

ひなたも別名儀出演は数作あるが、彼女の「アキナ」「太田あかり」「水樹香奈」等は、各々が「素人」「現役女子学生」等の触れ込みである為、無記名作品同様にAV女優が扮したものであることを隠蔽し、演者を清新なキャラクターとして印象付ける意図に依るものと考えられ、別名というよりは作品毎に用意された「役名」と解釈するのが妥当であろう。
ひなたの出演作である「アロマな綿パン」シリーズにも見られる、AV女優がAVとIV(イメージビデオ)とで名義を変えて出演作をリリースする活動パターンは既に常套的であり、AV女優として多くの過激な撮影をこなしながら、一方でクレジットを変改して素人の羞恥や慎みを模写した作品を産出するフォーマットによる先例は枚挙に暇が無い。

IVでモデルが披露する、局所露出に到達しない思わせぶりな煽情的表現は、その(実際には偽りの)無名性・純真性が誘因となり視聴者に強烈な高揚感を喚起させ、購入・視聴意欲へと継がれる擬餌となる。モデル調達に於いても人選に腐心することなく「知名度の低い企画女優」の起用という簡易的手段で賄える有用性をも併せ持つ。斯くてAV女優扮する「素人」女子学生、あるいはローティーン設定のイメージビデオ作品は同手法で数多くリリースされている。

また彼女らのひとつの活動の場として、いわゆる「男性誌」への出演が挙げられる。リリースを控えた作品告知を目的とした宣材写真掲載はもとより、雑誌の撮り下しによるグラビア、それに付随する付録DVDへの映像作品出演等である。ここでも彼女らはAV女優であることを隠匿した出演が主であり、街角で通りすがりにスカウトされた体を装い「素人」として被写体となる。「ひなた」も僅少ながらこの形態での雑誌グラビア出演が確認されている。月刊誌やムック本を中心とするこれらの雑誌類は、ネット普及によってその需要を大きく衰萎させている上、一般書店では片隅に押遣られるか、或いは取扱いさえ無い類の刊行物であり、身近な所ではコンビニエンス・ストアで僅かに目にすることが出来る。この手の書冊は、立ち読みによって損傷が生じても売れ残れば返品が可能な為、嘗て書店やコンビニ店では「客寄せ」的な、ひとつの集客手段にもなり得たが、2004年以降に全国的に施行された「有害図書に対する陳列基準」により、それまでの店内配置方法の制限に加えて閲覧防止の規制が施され、成人誌の中身を購入前に検見する機会は失われてゆく。

 

企画系女優は雑誌に於いてもAV同様に無記名出演が多く、上述の理由から中身を探る拠り所は表紙に記載された微小な女優名・顔写真表記のみとなり、DVD作品の探査以上に困難を伴う。「企画女優」は、活躍の場こそ「webサイト配信動画」「雑誌グラビア」「撮影会モデル」など多岐に渡るものの、その活動はいずれの媒体に於いても容易に遭逢叶わず、一人の女優の足跡を網羅することは極めて難しい。