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CRITICISMS 論攷

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「無垢 ひなた

MUKD062 2009/02/13

■従順な隸属

「制服・清純・敏感…美少女の匂い…シテハイケナイコト_」(「無垢」公式サイト、トップページ掲示の惹句)
作品はそのキャッチコピーに違わぬ情景を冒頭のエスタブリッシング・ショットに於いて明示し、制服に身を包んだ可憐な少女がカメラ前に佇むカットから開始される。心なしか憂いを帯び、あるいははにかみがちにカメラを見つめる眼差しは穏やかであり繊細なものだ。
しかし「無垢」では少女の破瓜の痛みや喪失感は描かれず、彼女らが纏う虚りの形姿を早々に取り払い、性経験を積んだ「AV女優」本来の顔を露わにしていく。冒頭で謳われた清冽なニュアンスは、作品を手にしたとき、或いはウェブサイトで目にするジャケット写真と、本編開始直後に見せる女優の形姿に一瞬間提示されるのみである。

本作「ひなた」編でもアヴァンタイトルに於いて、その清楚なイメージは早くも損壊させられる。

マンション風のリビングに立ちカメラに向う少女。濃紺のベストに膝上丈のプリーツスカート、そこから覗く引き締まった硬い脚。襟元で固く結ばれたリボンも凛とし、真直ぐに首を覆うボブカットが学生服に映える。
冒頭部で女優の全身を舐めるように撮る視姦的ショットは、ドラマ的要素を持たず、性交渉までのプロセスを淡々と紡ぐ古典的ジャンルにあっての常套的手法であり、その先にある凡庸でありきたりな展開を想起させる。それはインタビュー形式による虚構で構築された女優の自己開示であり、カメラ背後に控える質問者との冗長ともいえるもどかしい問答の開始を誰もが予測するだろう。

しかし本作の撮影者である男優は、無言のまま向合う少女の身体に無遠慮に触れ、彼女もそれに抗うことなく応じ、やがて男優の足元に跪くと濃厚な口淫行為に及んでいく。
男女の絡みが作品内で複数回設定されるのがAVの基本だが、本編開始早々に佳局を配置する構成は異質であり、平坦な序章を予測していた視聴者を欺く導入部となっている。数分間の短いシークエンスだが、カットバックの多様や、微笑するアップに事後の映像を数秒倒置で繋ぐなど、揺動的な編集がなされている。

「無垢」では本編中の会話を極力排除、男・女優は静謐な中で対置し、黙然と行為が進行していく。シリーズ中「りな」(MUKD-70)や「くらら」(MUKD-77)等で見られる、撮影時には男優の問いに女優が答える流れであったと思われるテイクも、男優の喋りの部分はカットされて女優の一人語りのように繋がれている。このような男優の存在排除、序盤に於ける一貫した主観視点の映像は、女優のカメラ目線とも相まって、あたかも鑑賞者自身が女優と対峙しているかのような夢想的効果として機能する。場面が媾合シーンに及び、三脚使用のフィックス撮影と継がれる客観視点とのカット割りとなっても、女優がこれを注視し続けることでこの正対感は霧消してしまうのだが、全編を通しての徹底したカメラ目線の保持、フェードイン・アウトによるチャプターの始終、各チャプターに於ける衣装替え等は、グラビアアイドルによる映像作品(IV:イメージビデオ)に見られる常套的手法であり、「無垢」はこのIVの基本的な手法を悉く踏襲している。

アダルトビデオの一部にも男優が登場しないイメージ作品は散見されるが、「本番」行為を行いながらも男優の存在を消し、あくまで女優単体のみをフィーチャーすることに徹した本シリーズは、その本質的属性を損なわないAV版イメージ作品と言えるだろう。

また「無垢」では女子学生風外見に拘り、女優も出演にあたり「らしく」変身させられる。さらに本レーベルの流儀となる、殆ど言葉を発しない演出は、視聴者の印象形成を見かけのみに偏向する。メイクも極めて素顔に近いものに抑えられており、シリーズ出演女優が他作品で主婦やOLに扮し、本作の映像と比較した場合、その別人のような風貌の差異に驚かされることも少なくない。
ひなたはこのジャンルの言わば「専任」女優であり、「人妻から女子高生まで」といった振り幅のある女優では出せないリアリティを醸成している。女学生に扮した際の端然とした佇まいは圧倒的で、そのまま進学塾のイメージキャラクターでも熟せそうだ。

続く「セイフク編」は序章の延長線上にあるシークエンスで、長廻しのカメラで、女優の表情や一連の反応を具に追う。行為に対する女優の呼応は作品によってまちまちであることから、演出上の制約や事前指示は緩いものと思われる。本作では序盤、男優(撮影者)が彼女を立たせたまま弄る様が這うようなカメラワークで収められており、原則的にカメラ目線を強いられながらも、男優の動きを伺う彼女に懐疑や逡巡が見てとれ緊迫感ある映像となっている。

衣服の前を開かれ、直接胸や秘所に触れられると瞑目し当惑するかのようにまばたきを繰り返す。反応は極めて希薄だが、懸命に自身を抑制しつつ、執拗な愛撫に耐えかね呼応してしまう姿は充分に官能的だ。
「セイフク編」の終了間際、男優はソファに放心状態で平臥する彼女の頭を撫摩る。これは同チャプター開始直後に見られる行為の反復であり、「無垢」シリーズ中で度々見られる男優の挙動であるが、撫される側の彼女の姿態は、「前戯」の導入部にあたる1度目と、「事後」の2度目で大きく変化している。「無垢」の主題は、女優の端正な形姿の壊乱、時間経過に伴い生じた相違の享受にあると思われるが、本作のアヴァンタイトル部でも用いられるこの視覚的押韻が女優の変相を知らしめる付箋となり、視聴者に双方を再認識・対比させる効果を生む。

本作は女優のテンションの変化から、事象的に一連の流れをもって鑑賞することが出来る。全てを通して眺めると、チャプターを追うごとに俳優間のスタンスの乖離が縮小され、最終章での彼女は積極的かつ奔放な絡みを展開している。変化が、偶然もしくは時間経過に伴う自然発生的、あるいは意図的に演出されたものであるかは不明だ。映像を見る限り「プロローグ」部分は「セイフク編」の後に撮られているようであり、各章は必ずしも撮影順に配列されてはいないのだが、観賞者は序盤からの差異を比較し、本章に於ける彼女の変貌ぶりを興味深く追うことが出来る。

■無垢 アヴァンタイトル・シークエンス

「無垢」では作品冒頭に毎回約6分前後のアヴァンタイトルが設けられており、それらの多くは引き画とクローズアップとの交錯からなる女優の形姿の提示と、対峙する男優への濃密な口淫描写を基底としている。登場女優の紹介も兼ねたこのシークエンスは、複数ショットのコラージュから成り、1シーンの時系列を崩した上で他ショットとの撹拌が施され、視聴者を作品に誘引すべく練られた導入部である。後に収載チャプターの断片を連ねた作品のダイジェスト版的な構成へと色を変えてゆくが、2009~10年度のシリーズ作品では、女優のイメージショット風カットや時折女優自らの「語り」を交える等、毎回趣向を凝らしたものとなっていた。
 

「無垢 ひなた」に於けるアヴァンタイトル・シークエンスは、佇む全身ショットから撮影者の彼女に対する弄い、それに続く口淫行為までの一連の展開から成るが、部分を寸断・翻倒して繋ぎ、立ち姿の部分カットに唐突な「事後」ショットの倒置(左写真)が齎される。そこから継がれるひとしきりの「行為」ののち、結尾で再度冒頭部へと復する円環構造が織りなす時間軸の遡行は、視覚的不均衡を生じ被写体の楚々たる見かけとの乖離を一層強調させている。後続する「反道徳的フレーズを表した文字で画面が埋め尽くされる」慣例のオープニングタイトルとも相俟って、見る者を意識高揚へと煽動する試みである。

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